アパッチ野球軍は屑鉄を盗んだのか
アパッチ野球軍の『アパッチ』とは、アメリカインディアンではなく鉄屑泥棒を意味している、という説を最近耳にしました。
話の出処はWikipediaのようです。
なお、表題の「アパッチ」はアメリカ・インディアン部族としてのアパッチ族の意味ではなく、終戦直後に大阪陸軍造兵廠跡地から屑鉄を掘り出していた生活者集団を意味する[要出典]。小松左京のSF小説『日本アパッチ族』や開高健の小説『日本三文オペラ』も、これら生活者集団をモデルとしている[1]。
Wikipediaにはこの説の参考文献として、米沢嘉博『戦後野球マンガ史 手塚治虫のいない風景』(平凡社新書、2002年)が挙げられています。
実際に購入し検証を行いました。
著者の米沢氏は「アパッチ」についてこのように語っています。
ここでいうアパッチとは、インディアン(ネイティブ•アメリカン)の部族のことではなく、終戦直後の大阪造兵廠跡地から屑鉄を掘り出して暮らしていた、たくましい生活者集団の意味だ。開高健の『日本三文オペラ』や小松左京の『日本アパッチ族』のモデルになったことでも有名である。
「アパッチ野球軍」もそうしたたくましい浮浪児たちのような、疎外された子供たちによるチームだ。
(米沢, 2002, p.127)
米沢氏の「アパッチ」への解釈には首を傾げざるを得ません。
私も「日本アパッチ族」を読んだことはありますから、アパッチが屑鉄窃盗集団を指した歴史があった事実は知っています。
しかしながら、アパッチ野球軍の作中では登場人物が屑鉄を盗んで生計を立てているシーンなど描かれていません。
彼らの家庭がどのように生計を立てていたのかも明確に描かれています。村にもともと住んでいた農家か、山の木こりか、あとから村にやってきたダム工事作業員です。親の職業はこの作品内で重要な意味をなしており、それを無視するとストーリーが成り立たなくなります。
舞台も愛媛県の道後地方です。大阪ではありません。
更に、「アパッチ野球軍」のチーム名は、村長達の迫害に遭っている野球部員の姿を、貧しいながらも侵略者と勇敢に戦ったインディアンに擬えて命名したと作中で明言されています。
(アニメ版第14話「新チーム誕生」)
漫画版で披露されたユニフォームでは、背番号の代わりにインディアンの横顔があしらわれています。
(週刊少年キング,1972年5月28日号,p.176)
※2021/02/09追記
アパッチ野球軍の単行本第1巻では、「アパッチ」の由来が当時のインディアンやアフリカに対する偏見とともに語られています。
(アパッチ野球軍第1巻, 2005年7月31日発行オンデマンド版,p.32)
※追記ここまで
ここまで「アパッチ=インディアン」の意味付けが前面に押し出されたのに、なぜ米沢氏は屑鉄窃盗集団の意味と解釈したのでしょうか。
そもそも、米沢氏はアパッチ野球軍の内容をさほど知らない可能性が高いです。
身障者も含めた、ユニークな個性を持つはぐれ者たちが、野球の旗の下に集まり、
(米沢, 2002, p.128)
アパッチ野球軍の中に「身障者」に該当する選手はいません。
障害者が活躍する同世代の野球マンガですぐ思いつくのは「男どアホウ甲子園」の丹波 左文字あたりですが、その辺と混同しているのではないでしょうか?
以上より、アパッチ野球軍の由来は屑鉄窃盗集団の「アパッチ」だとする説は、根拠がないものといえます。
2020年6月5日公開 『ミステリーニュースステーションATLAS』の記事について
【何が起こったのか】あの懐かしのアニメ番組、突然の再放送中止!?
文:江戸前ライダー ミステリーニュースステーションATLAS編集部
(公開日:2020年6月5日 最終閲覧日:2020年6月7日)
やはりこういう炬燵記事が登場しましたね。
放映中止の理由は不明としながらも、差別表現の多さが原因と印象操作したいらしく、放映を楽しみにしていた側の人間にとってはいい迷惑です。
なお、これまで再放送が困難だった大きな理由として、差別的な表現や台詞が多く含まれていたことからも、
この文章には疑わしい点が2つあります。
まず「これまで再放送が困難だった」という部分。実際は地上波、CSともに再放送が幾度かされています。
例えばWeb上でしばしば転載されているアパッチ野球軍の動画や画像は、多くが東映チャンネルの再放送時のものです。
好ましい状況ではありませんが、三角ロゴ入りの画像等は比較的容易に検索できてしまいます。
再放送の回数が少ないと言われても、まあ「ルパン三世」などの大ヒット作を再放送した方が喜ばれますしね、としか思えません。
次に「差別的な表現や台詞が多く含まれていたことからも」の部分です。
この「多く」とは何と比較しているのでしょう。同年代に放送されたアニメでしょうか。それとも現代のアニメでしょうか。
また、差別的な表現とは何を指しているんでしょうか。
これらを全く示していない時点で、筆者は本編を視聴していないのは当然として、調べる気も一切無いのでしょう。
作品の精査を全くしていないにも関わらず、
「差別的で、今では放送が出来ない作品だった」
と、ふわっとした印象だけの記事を公開するのは、風評被害そのものです。
私自身、そのふわっとした印象でアパッチ野球軍を見始めたのですが、『差別的な表現』と言えるものがほとんど見当たらず拍子抜けしました。
そして差別的どころか、登場人物が貧富の差や偏見に負けず、野球を通じて対等な人間関係を築く物語でした。
古い作品ですから、現代の目線で見れば違和感がある部分も否めません。
ですが、その是非を論じるのはまず本編を試聴しているのが最低限の条件です。
最低限の条件すらクリアできていないのに、ふわっと
「差別的な作品だ」
と本来の作品の性質と正反対の印象付けをして、幾ばくかのアクセス数を稼ぐとは、炬燵記事にしても下衆でしょう。
東映チャンネル 放映中止の件
2020年7月より東映チャンネルにて予定されていた、アパッチ野球軍の放映が中止されることになりました。
理由は「諸般の事情」とあるだけで、詳細は不明です。
https://www.toeich.jp/whatsnew/362
理由を東映チャンネルに問い合わせましたが、次のようなメールが返信されたのみです。
放送中止の事情を告知願いたいとこのことですが、
放送におきましては、番組の変更は一定程度常に生じている
ものであり、この作品に限らず、個別の案件において変更の経緯を
一般に公表してはおりません。また、今後、東映チャンネルにおいての放送の予定は、現在のとこ ろ
ございません。楽しみにしておられたのであれば大変恐縮であり、心苦しく思いま すが、
何卒ご理解のほどお願い申し上げます。東映チャンネル
延期ではなく、今後の放映予定は無いということです。
理由が不明瞭のまま中止の告知のみ行うやり方は、有料チャンネルにしては不親切ではないかと感じてしまいます。
ただ権利関係の都合かもしれませんし、しばらく静観しようと思います。
この件についてまた尾ひれのついた噂が流れないか、その点心配です。
Twitterでも、放映を楽しみに待っていた人の残念がる声が見られます。
このような形で終わりにせずに、またどこかで放映がなされることを望みます。
48周年
本日で、アパッチ野球軍のアニメ放映開始から48年が経ちました。こうして文字にしてみると、改めて長い月日を感じます。放映当時の事を覚えている方はどのくらいいらっしゃるでしょうか。
この作品に出会うまで、私は正直言って不良が更生する物語が嫌いでした。その意識を変えたのが「アパッチ野球軍」という作品です。
更生とは、社会の一員になるためのスタートラインに過ぎない。そういうメッセージを感じました。彼らは更生したからといって、それだけで賞賛されることはありません。これからどんなに辛い出来事があろうとも、それに耐え抜くだけの強い心は身についたのでは無いだろうか…そういう一種の暗さを湛えた希望をもって、このアニメは幕を下ろします。
いつの頃からか、あらゆる場所で自己責任論が聞かれるようになりました。そういう人たちに言わせれば、非行に走ったアパッチ野球軍の子どもたちも自己責任なのかもしれません。
しかし彼らが非行に走った背景には金銭面・教育面双方の貧困がありました。さらに言えば彼らの親も似たような境遇で育っているであろう事が推察でき、それ以外の生き方を学ぶ機会が全く無かったのだろうと思います。
過去の私も自己責任論者でした。アパッチ野球軍という作品に出会わなければ、今でも困難にある人たちを自己責任の一言で切り捨てていたかもしれません。
大げさな話に聞こえそうですが、私にとってアパッチ野球軍とはそれだけ大切な物語なのです。
自己責任論が蔓延する今だからこそ、多くの人に見てもらいたい。そういう作品だと考えています。
再放送の記憶
私がアパッチ野球軍の存在を初めて知ったのはいつだろうと思い起こしてみると、やはり再放送だった気がします。
とはいえ残念ながらその記憶ははっきりしていません。ただし大人になってDVDを見たときに
「このアニメソングはどこかで聞いたことがあるぞ」
と感じた経験があります。
そこから少しずつ記憶を紐解いていきました。
自分がアパッチ野球軍の再放送を見たのは、1980年代末期から1990年代半ば頃、放送地域は関東地方と思われます。
唯一はっきり覚えているのは、最終回でモンキーがバックスクリーンの時計台によじ登るシーンでした。私はそのシーンを見て、こんなのは野球のルールとしてあり得ないと兄弟たちと笑っていました。
「たまにゃハチにも追われるけれど」というフレーズがテレビから流れてきて、それが妙に耳について口ずさんでいた記憶もあります。
それから「こんな馬鹿馬鹿しいアニメを見るのはやめなさい」と親に注意された記憶も。
アパッチ野球軍を再放送で楽しんでいたという人の話を聞き、そういえば私も見ていたかもしれない……と次第に思い出すようになってきました。
ただ、これらの記憶が再放送によるものなのか、何かの特番で流されたワンシーンをたまたま覚えているだけなのか、そこがはっきりしません。
もし私と同じ頃に同じ地域でアパッチ野球軍を見た事があるという人がおりましたら、教えてくださると幸いです。検証というより、思い出が共有できたらという気持ちです。
【幻の最終回】アパッチ野球軍、三種類の結末
アパッチ野球軍には三種類の最終回があります。
その中でも原作漫画の最終回は単行本化されておらず、文字通り「幻の最終回」となっていることをご存知でしょうか。
今回はその幻の最終回も含めた三種類の最終回についてまとめたいと思います。
最終回その一 アニメ版
アニメ版は全26話で完結します。当時のアニメにはよくある事ですが、原作には無いオリジナルエピソードがかなり多く、ほとんど別物と言っていいかもしれません。
ただし、アパッチ野球軍に甲子園出場の権利が無いことが判明する点は同一です。
甲子園常連校・QL学園との練習試合を行うアパッチ野球軍。大会本番さながらの光景に緊張したためか、チームワークを乱してしまいます。最後は大根の捨て身のファインプレーがきっかけとなり、力を合わせて勝利します。
素晴らしい戦績を上げたにも関わらず、文部省の公認校では無いため甲子園に出られないと知った剛は絶望し、村を去ることにしました。
剛の別れの言葉を聞き、網走は「俺たちは甲子園に優勝したのと同じだ。優勝したなら監督を胴上げするんだ」と生徒たちに呼びかけ、皆で剛を胴上げします。
最後に校長から意外な「土産」を差し出されます。それは千恵子でした。校長は二人が想いを寄せあっているのを知っていたのです。
まだ見ぬ野球を知らない子どもたちのために、剛と千恵子は新天地へと向かいます。
最終回そのニ 漫画単行本版
漫画の単行本は収録が途中で打ち切られたために、原作を大幅に改変した最終回となりました。なんと話の続きを空白のコマで埋め、その後の展開を文章で説明するという形で無理やり終えているのです。
(画像は筆者所有のオンデマンド単行本より)
原作ではこの後も話が続き、生徒たちが進級する様子まで描かれています。
最終回その三 漫画原作版
アパッチ野球軍は甲子園の予選を「コマンチ」こと小町部落の隠高校と戦います。アパッチ以上に野生的な環境で育った彼らは信じられない程の身体能力を見せつけ、アパッチ野球軍は苦戦します。更に、無理をして投球を続けた網走は限界を迎えており、選手生命の危機に陥っていました。
その危機を救ったのは材木のホームランでした。勝利が確定したその直後、アパッチ野球軍は甲子園の出場権を有していない事が伝えられます。しかし彼らに絶望の表情はありませんでした。隠高校の選手たちもアパッチの勝利を讃えます。
そしてアパッチ野球軍のメンバーは卒業を迎えます。大学とコウモリは進学。今は下手だけど野球を続けてゆきたいとコウモリは言います。
材木とハッパは親の後を継ぎ、大根は学校のお手伝いとして働くことになりました。
剛から将来の道を聞かれた網走は、オルゴールを取り出します。それは剛と千恵子の結婚を祝う曲でした。網走は堂島剛二世として、この村で野球を教えていくことを決めたのです。
堂島と網走は共に野球指導者として、村に残ることとなりました。
漫画原作の最終回を読むには当時の少年キングを読むしかありません。私もなんとか一冊ずつ集めていたのですが、まだ断片的にしか情報を得ていません。
そのために不正確な内容もあるかもしれません。実際に読破した方の声も聞いてみたいです。
2020/07/12
漫画原作版最終回の対戦相手を誤って記載していたため修正しました。
修正前:小松高校
修正後:小町部落 隠高校
漫画版の最終決戦についても近々記事にする予定です。
良ければご覧ください。
アパッチ野球軍のざっくりとした作品解説
第一話から最終回までの流れを説明します。
途中かなり省いた部分もありますがご容赦ください。
剛の過去と猪猿村
主人公、堂島剛が猪猿村の野球部監督として赴任し、生徒との信頼関係を築くまでが描かれます。
剛は以前、天才と呼ばれた高校球児でした。スイッチピッチャー(左右両手投げ)という珍しいスタイルも注目を浴び、プロ入りは間違い無しと言われていました。
しかし家庭的には恵まれておらず、契約金に目が眩んで暴走する父親を止めるために自分の腕を不具にします。
プロ野球選手という夢が絶たれ、失意の中、剛は恩師の勧めで「猪猿村」へ向かいます。高校の野球部監督として赴任するためです。
猪猿村はダム建設が予定されている村です。
ダムの作業員が他所から押し寄せて以来治安が悪化しており、そのため村人たちは余所者に対して異常なまでの拒絶反応を示しています。
剛も余所者として数々の嫌がらせを受けますが、山で遭難した生徒を命懸けで助けた事から、周囲との信頼関係が生まれてゆきます。
部費使い込み事件
かつては暴れ放題の不良だった生徒達も、今や真面目な野球部員…と思いきや、またしてもトラブルが発生。
野球道具を買いに行かせた生徒たちが、その費用を全て使い込んでしまったのです。
しかもそのお金は村人たちの寄付金。
再び野球部と剛に厳しい目が向けられます。
村長の娘(花子)が野球部員だったこともあり、ついには政治問題に発展してしまいました。村長は落選し、村の経済を牛耳っていたよろず屋・小森(コウモリというあだ名の生徒の父親)が新村長に就任します。
野球の方も、小学生相手の試合に大敗するなど、全く上手く行きません。
苦難続きの剛を力づけてくれるのは、猪猿塾の校長の娘・千恵子の存在です。彼女とのひとときが彼にとっての癒やしでした。
野球部潰しの裏に秘められた夢
コウモリは親の言いつけで、剛の野球部を潰すことを画策します。そのために手を組んだのが網走という生徒です。
彼は当初から野球部に反感を持ち続けており、また父親が前科物ということで周囲から恐れられていました。
ところが剛からピッチャーとしての天才的な才能を指摘され、網走の心に変化が訪れます。彼は密かに、プロ野球選手になりたいという夢を抱いていたのです。
素直に仲間に入りたいと言えないもどかしさで彼は悩みます。
さらに、ピッチャーとしてもある重大な欠陥が判明します。彼は豪速球は投げられても、コントロールは皆無だったのです。
アパッチ野球軍の快進撃
野生児さながらの身体能力で外野手として才能を開花させたモンキー。
ホームランバッターとして、そしてどんな豪速球も受け止めるキャッチャーとして実力を見せる材木。
そして剛と同じスイッチピッチャーとして技術を磨く網走。
彼らの活躍で、アパッチ野球軍はかつての名門・荒波高校野球部との試合に勝利します。
その流れで甲子園常連校であるQL学園野球部から試合を申し込まれました。
この試合で勝利したら、もしかしたら実力を認められて甲子園への道が開けるかもしれない。そう剛は期待しました。
試合は一時チームワークを乱しピンチに陥るものの、見事に勝利を収めます。
絶たれた夢と別れ
アパッチ野球軍は甲子園へ出場する事ができませんでした。
理由は、アパッチ野球軍はあくまで私塾の野球部だったからです。文部省(当時)に認可された学校の野球部でなければ高野連に所属できず、甲子園大会への出場権も無いのです。
失意の中、剛は村を去ることを決めました。さまざまな僻地を訪れ、野球を知らない子どもたちに野球を教える。一生をそれに捧げることにしたのです。
生徒が見送る中、剛を乗せた船は港を離れてゆきます。剛の隣には千恵子も一緒でした。