アパッチ野球軍考察ブログ

1971年〜72に放映のアニメ『アパッチ野球軍(原作:花登筐 漫画:梅本さちお 制作:東映動画)』について語るブログです。

アパッチ野球軍 第1話「傷だらけのエース」

アパッチ野球軍の第1話は、主人公堂島剛(たけし)の不幸な過去を語ることから始まります。

剛は優秀な投手でした。

高校時代はスイッチピッチャー(左右両投げのこと)を武器に活躍。甲子園決勝で完全試合を達成するという前代未聞の記録を打ち立てます。

 

しかしプロ入団の契約金に目が眩んだ剛の父親は半ば「身売り」と言える行動をし、絶望した剛は自ら利き腕を不具にします。

 

「さらなる不幸」と書いたのは、剛がこれまでにも父親のせいで数々の不幸を味わって来たからです。その詳細は剛の高校時代を描いた作品「エースの条件」に記されています。

原作はアパッチ野球軍と同じ花登筐。

この作品は「ドカベン」「野球狂の詩」などで知られる水島新司が初めて本格的に描いた野球漫画だそうです。

 

 

アパッチ野球軍の第1話でわかるのは、子供というものの弱さです。

剛は人並み外れた才能と、大人にもまさる志の高さを持った少年でした。それらはたった一人のろくでなしの父親のせいで台無しにされます。

剛の不幸なエピソードは、子ども自身に強い意志や才能があっても大人の前では無力である、という事を表しています。

 

その事を知った上でアパッチ村――剛が赴任する「猪猿村」の子ども達を見ると感想が変わります。

猪猿村の子ども達は犯罪者予備軍とでも言うべく、素行の悪いものばかりです。それは、果たして子どもたち自身のみの責任なのでしょうか。

剛のように立派な若者でも、ただ一人の肉親のために人生を壊されています。猪猿村の子どもたちの周りには誰ひとりとして、彼らの将来を思いやる大人がいませんでした。

 

彼らの周りには目標とすべき立派な大人もいません。「真面目」がどういう事なのか。「正しく生きる」というのはどういう事なのか。彼ら自身が想像する機会が全く閉ざされています。

その中で彼らに対し、自らの力だけで更生するように説いても、無理難題というほかありません。

 

彼らの身の上を唯一案じていたのは、彼らが通う学校「猪猿塾」の岩城(がんじょう)校長のみです。その校長に乞われて、剛はこの村にやってきたのでした。

今まで品行方正に生きてきた剛には、彼らがなぜここまで荒れているのか想像できないのかもしれません。そのため第1話での剛はやや猪猿村の全てに対して冷淡です。

 

この物語は熱血教師が不良少年たちを導いていくというよりは、まだ未熟さの残る主人公が少年たちの交流を経て成長していく物語として見ることができます。

閉鎖的な村の荒んだ暮らしが変わる第一歩が今踏み出されたところです。

 

アパッチ野球軍第1話『傷だらけのエース』

主な登場人物

堂島剛(cv.野田圭一

剛の父(cv.永井一郎

岩城校長(cv.富田耕生

岩城千恵子(cv.坪井章子)

ハッパ(cv.田中亮一

材木(cv.北川国彦)